バッハ「平均律クラヴィーア曲集」第2巻/第1巻   小林功 (2016.9.28/9.30)

高校・大学の先輩である小林氏の録音。

第2巻

ある夏の日、図書館で「レコード芸術」を読んでいたところ、この録音が「特選」となっていた。そう言えばバッハの演奏をこのところ聴いていないなあと思い、早速購入してからもう10年以上経ったように思う。最初聴いたときは、正統的な解釈を基本にしながらもアーティキュレイションに工夫を凝らした演奏だということと、ベッヒシュタインの美しい音色が印象に残っていたが、最近私もバッハを勉強し直すようになってきたので、再度全曲を聴いてみることにした。まずは第2巻。この第2巻が2001年に録音され、その後第1巻が2002年に録音されたそうである。

各曲の様式感が見事なのは前回聴いたときと印象が変わっていないが、「平均律」と言えば「学習用の作品」という意識が以前にはどこか残っていたように思う。今回はそれを忘れて、バッハが残してくれた素晴らしい芸術世界を堪能した、というのが正直なところだ。

最近、バロックや古典派時代の楽譜の読み方についての研究書を何冊か読んだこともあり、以前はかなり個性的だと思ったアーティキュレイションが今回はすべて自然に聴こえたことは自分でも驚きである。そう言えばハープシコード奏者たちはこういう演奏を行っていることを知っていたはず。ピアノでも音符を「読んで行く」ということが大切なのだと、今さらながらに教えてもらった心境である。

この「第2巻」は前奏曲、フーガとも「自由な書法」のものが混在しており、変化が幅広いとライナーノートに書かれている。確かに、続けて聴いていて楽しい。私の好きな「ハ長調」「嬰ニ短調」「ヘ短調」「ト短調」「ロ長調」のすばらしさは特筆すべきであるが、「嬰ヘ長調」など、前奏曲の良さが昔は今一つ分からなかったのが、この演奏で「こんな美しい曲だったのか!」とようやく分かったということもあった。

小林氏が示してくれたバッハの偉大な世界を再認識、そして感動、というひと時であった。


第1巻:

解釈の方向は第2巻と全く同じと言ってよいと思うが、「第4番」「第8番」「第22番」「第24番」などの大作を聴いてみると、この演奏家の考えがよく分かるように思う。曲の構造を理解しながら決して説明的にならず、むしろ譜面を読んでその場で弾いているかのような自由な演奏。自然体で臨むバッハと言える。これは真に音楽を理解した人にのみ成せる業ではないか。

第2巻と同じくすべてに感銘を受けた演奏であったが、全曲を聴いてからもう一度全曲を聴き直した、という体験は、このCDで初めてである。バッハの音楽の美しさを再確認したひと時であった。



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