Sviatoslav Richter Archives Volume 15 (2015. 9.8)

シューベルトのソナタを聴く時には、いろいろな全集も出ているが、やはりこの人の演奏を聴かないと満足できないことが多い。

このCD(2枚組)には第3番ホ長調(D.459)が収録されているので購入した。実はFMを録音したカセットテープも所有しているのだが、ひょっとすると音質が違っているかも、という気持ちもあっての購入である。その他にはシューベルトのソナタ第9番ロ長調(D.575)、ブラームスの小品、ショパンのスケルツォ全曲、ラフマニノフの小品などで、すべて演奏会の録音である。

肝心のシューベルトの「ソナタ   ホ長調(1890年、ホーエネムス城、騎士の間)はFM録音のほうが音は良い。今回のCDは全体的にくすんだような音で、ピアノの音の魅力が全然分からないように思う。これには失望した。ただ、演奏はさすがのもので、初期シューベルトの抒情を味わわせてくれる好演だと思う。特に第3楽章の深さ。

驚いたのはショパンの「スケルツォ」である。すでにスタジオ録音は聴いていたが、このライヴは凄まじい。第1番など火のついたようなものすごい迫力だ。テンポの緩急をかなり大きくする解釈は彼独自のものだが、一気に駆け抜けていくような主部の演奏、これは実演ならではのものであり、全盛期の彼の実力を感じた。ものすごい速さと言うと、ブーニンが初めて登場した時の演奏スタイルと似ているような気もするが、リヒテルの演奏は何か精神の奥へ奥へと集中していくような感じが違っているように思う。他の作品も素晴らしい出来である。

ラヴェルの「悲しい鳥」は、1994年に昭和女子大学人見記念講堂で演奏を聴いたことがあるが(「鏡」全曲)、1965年からすでにレパートリーにしていたことを知った。彼のフランス音楽の演奏は以前からなかなか素晴らしいと思っていたが、ここで聴かれる、ショパンと同様の濃淡の付け方は、ややこの作品としては不自然のようにも感じる。来日公演を聴いた時は、ずいぶんすっきりして無駄なものがなくなった美しい演奏だったが、これも年月の経過によるものだろう。ラフマニノフ(1965年、カーネギーホール)は、後の来日公演(1984年)で聴いた時と似た印象だが、エネルギーが違う。練習曲「音の絵」の力強さなどにそれが表れている。

シューベルトの「即興曲」「楽興の時」も収められていた。私はやはり、シューベルト作品はリヒテルの演奏を聴きたいと思う。音楽の広がりや、豊かな「歌」に満ちた世界。初めて彼の実演を聴いた時もオール・シューベルトだった(新宿厚生年金会館)。それを思い出しながら、こういう演奏をまた聴いてみたい、と強く思ったひと時である。




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