ブラームスのピアノ作品
Johannes Brahms(1833-1897)

作品 内容・寸評
ピアノ・ソナタ第1番 ハ長調 Op.1 情熱的でダイナミック。第1楽章:第1主題はべートーヴェンのOp.106の影響が明らかである。第2主題は転調がやや理屈っぽいし全体に流れが不自然な感じもあるが、シンフォニックな展開部やコーダには若きブラームスの意欲が感じられる。/第2楽章はミンネリートに基づいた声楽的な楽章。/第3楽章はスケルツォ。トリオで「più mosso」となるのだが、例えばOp.116の最終曲コーダで見られるような「拍の単位を揃えるのではなく1小節を同じ長さに保って心理的な一貫性を保つ方法」だと考えればテンポの決定は自然にできるように思う。/第4楽章はスタカートの分散和音のうえにメロディーが和音のスタカートで奏される。主題の存在感がもうひとつという印象が残る楽章だがコーダは迫力があって聞かせる。
ピアノ・ソナタ第2番 嬰へ短調 Op.2 シンフォニックな第1楽章、メランコリックな第2楽章(ミンネゼンガーの詩に基づく)、前楽章と動機に関連性を見せる第3楽章、幻想的な第4楽章。
ピアノ・ソナタ第3番 ヘ短調 Op.5 ソナタの中では最も演奏頻度が高く人気がある。前作2曲以上にスケールが大きく充実しているソナタ。第1楽章は若きブラームスらしいエネルギッシュな第1主題と穏やかな第2主題の対比が見事。アゴーギクの指示が詳細なのも特徴である。第2楽章にはシュテルナウの詩「若き恋」が引用されており、第4楽章も「回顧」というタイトルが付けられている。全体にロマン的な香りの高い名作。
スケルツォ 変ホ短調 Op.4 ブラームスがリストにこの曲を見てもらった時、リストが初見でこの曲を弾くと周りの人たちが「ショパンのスケルツォによく似ている」と言ったらしい。ブラームスは「ショパンのスケルツォは知らない」と言ったらしい。
4つのバラード Op.10 第1番ニ短調:古いスコットランドのバラード<エドワード>に霊感を受けて書かれた。父親を殺し、母親に呪いをかけるという暗い詩。一体なぜこんな詩に曲を付けようと思ったのだろう/第2番ニ長調:ブラームスのモットー「Frei aber Einsam」の動機。主部と中間部の音色の対比は管弦楽曲を思わせる。/第3番「間奏曲」ロ短調:スケルツォ的性格の作品で、リズムが特徴的である。/第4曲ロ長調:短調かと思うとすぐに長調になる珍しい開始。中間部が渋い。
シューマンの主題による変奏曲 嬰へ短調 Op.9 シューマン的な幻想風変奏曲。主題はシューマンの「色とりどりの作品 Op.99」第1曲。
自作主題による変奏曲ニ長調 Op.21-1 「主題との関係はもっと厳密に、また透明に保たれるべき」との考えのもとに創作された。変奏曲の名作。
ハンガリーの歌の主題による変奏曲 ニ長調 Op.21-2 主題は3+4拍子。第1変奏から短調に転じるのが特徴である。
ヘンデルの主題によ変奏曲とフ−ガ 変ロ長調 Op.24 ピアノ1台で管弦楽を思わせるような響きの広がりを感じさせる名作。
パガニーニの主題による変奏曲 イ短調 Op.35 ブラームスの考えるピアノ技法が最高度の形で現れた作品。タウジッヒの勧めで書かれたということらしい。
ワルツ集 作品39 作曲者自身が「シューベルト風の形による無邪気な小さいワルツ」と述べていることからもわかるが、この曲集はいわゆる「ウィンナ・ワルツ」ではない。レントラー風でもあり、ハンガリー風でもある。
主題と変奏 ニ短調 「弦楽六重奏曲第1番」第2楽章の編曲。オリジナルとの違いはピアノの華麗なアルペッジョ奏法にある。
8つの小品 Op.76 ブラームスピアノ作品の転換期の作品。第1曲は暗いが秘めた情熱を感じさせる音楽で、テクスチュアが素晴らしい。第2曲は演奏機会の多い曲で、ハンガリー風。第3曲はオルゴールを思わせるような優雅な高音で微妙な和音の変化が特徴。第4曲はやや中間的な性格でシューマン風。第5曲は重厚かつエネルギッシュな1曲。第6曲は3連符と8部音符の複合リズムの中から旋律が浮かび上がる。中間部嬰へ短調となり悲痛な心を感じさせる。第8曲は明るく軽やかなアラベスク風作品で、ブラームスにもこんな純真な音楽があるのかと思わせる。
2つのラプソディ Op.79 第1番ロ短調:この曲は当初「Capriccio」と題されていて、テンポも「Presto agitato」と表記されていたのだが、クララ・シューマンがある私的な演奏会でテンポを基本的にややおそめにとったのでブラームスは版下で「Presto」を消去したという。/第2番ト短調:同じく当初は「Molto passionato」だったがクララの演奏により「ma non troppo allegro」と付け加えられた(ウィーン原典版の解説より)。
7つの幻想曲 Op.116 晩年のピアノ小品集。第1曲は激しい気分を持つ「カプリッチョ」。第2曲はしみじみ昔を語るかのような「間奏曲」、第3曲は再び激しい楽想の「カプリッチョ」だが中間部ではブラームスらしい重厚な響きが魅力である。第4曲は静けさに満ちた「間奏曲」、第5曲は神秘的な「間奏曲」。第6曲は弦楽合奏を思わせる和声的な主部、孤独な心境を思わせる中間部を持つ「間奏曲」。第7曲は減7和音を激しく奏する、嵐のような「カプリッチョ」である。
3つの間奏曲 Op.117 ブラームスいわく「苦悩の子守歌」。3曲とも遅めのテンポで奏される。第1曲はジムロックが「子守歌」として別に出版しようとしたが実現しなかった(ジムロックが有名な「子守歌」と同じような成功を期待したからと言われる)。第2曲はメランコリックで美しい一曲。第3曲は暗い情緒が支配する作品でいかにもブラームスらしい。
6つの小品 Op.118 全曲並べて演奏されることが比較的多い曲集。第1番間奏曲は普通「イ短調」と表記されるがハ長調の曲がイ短調に向かっていくように聞こえる。第2番間奏曲はこの曲集中でおそらく最も名高い1曲。ブラームス好みの時々跳躍するメロディーが美しく、中間部は二重奏が孤独感を一層高めるようである。第3番バラードは当初「ラプソディ」と命名されるはずだった。和音の力強いスタカートは「ピアノ協奏曲第2番」などの作品を思わせる。第4番間奏曲は左右交互の三連符を用いた技巧的な作品。第5番ロマンスは昔の合唱曲のような穏やかな気分を表す。第6番間奏曲は暗い気分に満ち、和声的な不安定さが幻想的な気分を醸し出す。
4つの小品 Op.119 この曲集は、3曲の「間奏曲」と1曲の「狂詩曲 Rhapsody」から成るが、「作品116」以降の晩年の曲集の中では、変化に富んでいてまとまりのよいものと言えよう。第1番 間奏曲 ロ短調:クララ・シューマンはこの曲をブラームスから受け取り、「灰色の真珠…曇っているが非常に貴重だ」と評した。全体に不協和音が多く、心の内面の複雑さを感じさせる。/第2番 間奏曲 ホ短調 寂寥感あふれる主部と、中間部の穏やかなレントラーとの対比が見事である。/第3番 間奏曲 ハ長調 明るく楽しい、ユーモラスな曲で、ブラームス晩年の作品としては珍しい。/第4番 狂詩曲 変ホ長調 堂々として力強い。若い日の情熱がよみがえってきたかのような楽想で、二つのエピソードを持つロンド形式。最後は変ホ短調で曲が閉じられる。
左手のためのシャコンヌ ニ短調(バッハのパルティータBWV1004の編曲) 右手の肘を脱臼していたクララ・シューマンのために書かれた。オリジナルに忠実な編曲で、左手のための作品として意義がある。
51の練習曲 これを課題として用いるピアノ教師やピアニストは意外に多い。
ピアノ協奏曲第1番 ハノーファーでの初演と、続くライプツィヒでの演奏会ではあまり評判が良くなかったという。当時はリストに見られるヴィルトウオーソ的協奏曲が全盛であり、重厚で古典的な響きは聴衆にはなじめなかったのだろう。また、第1楽章の主題も和声的に複雑で分かりにくいし、ブラームスとしてはかなり前衛的な作品であったことも原因であったかと思われる。しかし2か月後のハンブルクでは好評を博し、その後は次第に評価されるようになったそうである。演奏者側から見ると、この曲は独自のピアニズムに満ちており、実に魅カ的な作品である。
ピアノ協奏曲第2番 彼のもっとも円熟した管弦楽法とピアノの技巧とが見事に調和した作品。第1楽章はホルンによる主題提示をピアノが伴奏する冒頭が素晴らしい。第2楽章では第2主題でブラームスらしい和音の跳躍奏法があるがここでテンポを落とす人と全体を遅めに(アレグロ・アパッショナートだが)演奏する人がいる。第3楽章と第4楽章ではトランペット、ティンパニが使用されないこともこの作品の特徴と言え、軽快な音楽表現になっている要因とも思われる。
4手作品・2台ピアノ作品 以前あるCDの解説を書いたことがあるがここでは省略。
ピアノを含む室内楽曲 いつか書く予定
オルガン作品 以前あるCDの解説を書いたことがあるがここでは省略。


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