クレメンティ Muzio Clementeli (1752-1832)のピアノ作品


子供のころ「ソナチネ」を弾いた時はあまり作曲家について興味を持つこともなかったのですが、中学生のころ「クレメンティの練習曲を勉強しなさい」と先生に言われて練習したのが「グラドゥス・アド・パルナッスム(タウジッヒ編)」。その後、ホロヴィッツの録音でソナタを数曲知るようになりました。モーツァルトとの競演、フィールドの先生としての逸話などが有名な人ですが、ピアノ作品でなかなか良い曲があるのに、なかなか演奏される機会はないようです。そんな作品について調べてみました。ヘンレ版の『Clementi Klaviersonaten Auswahl 1/2』、および全音『クレメンティー ソナタアルバム1・2』に掲載されている作品についてコメントを載せていきます。(WO=Werk ohne Opusnummer /A.タイソンのカタログによる)

曲名 寸評(調名の記載がないものは題名と同じ調) 作曲年(出版年)
ピアノ・ソナタ  ト長調 WO14 第1楽章 Allegro, 2/2拍子,ハイドン風で明るい楽章。/第2楽章Allegro assai, 3/8拍子,このソナタはOp.1-1の第1ヴァージョンであるとする説がある。 1768?/1771出版
ピアノ・ソナタ 変ロ長調 Oeuvre 1-2  第1楽章 Allegro moderato, 2/4拍子, ロココ風で優雅な楽想。第2楽章 Andantino grazioso 変ホ長調,3/4拍子。全体20小節と短めの楽章。第3楽章 Air du Ballet de Mirza avec des Variations: Allegro,2/4拍子。主題と変奏。  1780-81出版 
ピアノ・ソナタ 変ホ長調 Op.2-1 第1楽章 Allegro, 4/4拍子、第1主題の和音で10度を用いるのが弦楽器的で面白い。展開部では意外性のある半音階進行、音程が見られるほか、再現部で和声を変化させるなどの工夫が見られる。第2楽章 Allegro con spirito,4/4拍子。ダカーポ形式の三部形式で、トリル、3度進行などこの作曲家の特徴を備えている。 1779出版
ピアノ・ソナタ ハ長調 Op.2-2 第1楽章 Presto,4/4拍子。「オクターヴ・レッスン」という名で人気のある曲だった。技巧的な楽しさに満ちている。第2楽章 Rondo: Spiritoso, 2/4拍子。6度、8度、トリルなどこの楽章も技巧的であり、モーツァルトや初期のベートーヴェンを思わせる楽想。 1779出版 
ピアノ・ソナタ  ト長調 Op.2-3 第1楽章 Moderato, 4/4拍子。短い序奏を持つ主題。規模は小さい楽章だがリズム的な変化があって愛らしい。第2楽章 Allegretto 2/4拍子。ト短調のトリオ(アルペジオのみで構成)を持つ。   1779出版 
ピアノ・ソナタ  イ長調 Op.2-4 第1楽章 Allegro assai 4/4拍子,3度・6度のパッセージ、速い連符など非常に技巧的なパッセージが特徴。第2楽章 Spiritoso、6/8拍子,3度・8度の速いパッセージが目立つ。イ短調部分のオクターヴの連続は速く弾くのはかなり難しいがこれは当時のピアノのタッチと関係しているかも。 1779出版
ピアノ・ソナタ  ト短調 Op.7-3 第1楽章 Allegro con spirito 2/4拍子、モーツァルトのあるソナタと似たリズム重厚な和音やオクターヴはクレメンティの特徴を表している。第2楽章 Cantabile e Lento 3/4拍子、変ホ長調。第3楽章 Presto 6/8拍子。展開部で嬰ト短調〜イ短調と転調するのがドラマティックである。 1782出版
ピアノ・ソナタ  ト短調 Op.8-1 第1楽章 Allegro assai  2/2拍子。おおらかで、リズムの変化に富んだ楽章。第2楽章 Larghetto con espressione 3/4拍子、変イ長調。右手オクターヴで美しいメロディーが奏でられる。第3楽章 Allegro 2/4拍子。愛らしく軽やかな楽章。 1782出版 
ピアノ・ソナタ  変ホ長調 Op.8-2 第1楽章 Allegro 2/4拍子。変化に富んだピアニスティックな書法が見られる。第2楽章 Andante cantabile 3/4拍子、変ホ長調。第3楽章 Presto 3/8拍子。無窮動風で音階のパッセージが特徴。 1782出版
ピアノ・ソナタ  変ロ長調 Op.8-3 第1楽章 Presto、2/2拍子。ユニゾンの第1主題は明るく力強い。第2楽章 Minuetto: Allegro 変ロ長調 3/4拍子。第3楽章 Rondo: Allegretto grazioso、2/4拍子。細かい装飾が美しい、優雅なロンド。 1782出版
ピアノ・ソナタ  変ホ長調 Op.9-3 第1楽章 Allegro assai 2/2拍子。ターンの形を記号ではなく実音で記譜してあるのが珍しい。安定感のある楽想である。第2楽章 Larghetto 変イ長調、3/4拍子。第3楽章 Prestissimo 2/2拍子。6連符、3連符を駆使した軽やかなパッセージが特徴。 1783出版
ピアノ・ソナタ  イ長調 Op.10-1 第1楽章 Allegro con spirito 4/4拍子。親しみやすく美しい音楽。第2楽章 Minuetto: Allegretto con moto 3/4拍子。第3楽章 Prestissimo 4/4拍子。3連符が支配する技巧的楽章。このイ長調ソナタはOp.10の中で楽章のバランスが良く、ソナタの中でも成功した例としばしば評されている。 1783出版
ピアノ・ソナタ  ニ長調 Op.10-2 第1楽章 Maesrtoso 4/4拍子。安定感のある主題。提示部の反復の指示はないのが珍しい。第2楽章 Presto 2/4拍子。活発で流れの良い音楽である。 1783出版
ピアノ・ソナタ  変ロ長調 Op.10-3 第1楽章 Presto 4/4拍子。主題や各種音型に跳躍進行を盛り込んでいるのが面白い。再現部は下属調で現れる。第2楽章 Andante con espressione 変ホ長調 3/4拍子。落ち着いて気品のある舞曲風。第3楽章 Allegro assai 「ソナチネOp.36-4」の第2楽章をどことなく思わせる主題。ときどきへ美緒らの技法を用い、変化を出している。 1783出版
ピアノ・ソナタ  ヘ短調 Op.13-6 第1楽章 Allegro agitato 2/2拍子。3連符の流れが特徴で、第1主題が再現されないソナタ形式と言える。第2楽章 Largo e sostenuto ハ短調,3/4拍子。クレメンティの緩徐楽章の中では比較的長大である。第3楽章 Presto 3/8拍子。 ピアニスティックで魅力的な楽章である。ベートーヴェンの「エグモント序曲」に似たパッセージが聞こえるのが面白い。 1785出版
ピアノ・ソナタ  変ホ長調 Op.23-1 第1楽章 Allegro molto 2/2拍子。シンプルで分かりやすい音楽。時々フェルマータを挟んで楽想が示されるのが特徴。第2楽章 Rondo vivace 2/4拍子。pとfが交替する主題。この楽章もしばしばフェルマータが現れる。 1790出版
ピアノ・ソナタ  ヘ長調 Op.23-2 第1楽章 Allegro con spirito 4/4拍子。主題は個性的とは言えないが、その後の展開はこれまでにないような美しい響きを持っており、見事である。第1楽章 Adagio 3/4拍子。テーマが後半で装飾されるところが美しい。第3楽章 Rondo: Allegretto con spirito 2/4拍子。「対比的素材を用いずに、楽章の構成を、安定した調性と不安定な調性による区分で仕上げている(プランティンガ)」。これはクレメンティのロンドによくみられる方法。 1790出版
ピアノ・ソナタ  変ホ長調 Op.23-3 第1楽章 Allegro con vivacita 2/2拍子。技巧的な展開が多い楽章。再現部での高音域の扱いに美しさがある。第2楽章 Arietta con Variazioni 2/4拍子。テーマは24小節の3部形式だが変奏になると繰り返し記号を持ったものをそうでないものがあってやや不規則なつくりになっている。 1790出版
ピアノ・ソナタ  変ロ長調 Op.24-2 1781年12月24日、ウィーンで皇帝ヨーゼフ二世の御前で行われたモーツァルトとの競演会において演奏されたことから有名となった作品。第1楽章 Allagro con brio 4/4拍子。第1主題の動機は第2主題でも用いられる。コーダにはカデンツァを挿入できる箇所があるのが特徴。第2楽章  Andante 2/4拍子、ヘ長調。表情豊かで変化に富んでいる。第3楽章 Rondo: Allegro assai 2/4拍子。魅力的な主題と技巧的なパッセージのバランスが素晴らしい楽章。 1788〜89出版 
ピアノ・ソナタ  ハ長調 Op.25-1 第1楽章 Allegro di molto 4/4拍子。両手による6度のパッセージ、長い重音トリル、再現部前のカデンツァなど、ピアノ協奏曲の独奏パートを思わせる。フンメルがよく用いた両手の3度パッセージも登場。第2楽章 Adagio 2/4拍子。動きのある緩徐楽章。第3楽章 Presto 2/4拍子。第1楽章同様、協奏曲の独奏を思わせる書き方。管弦楽がないとどこか物足りない印象だ。第32小節からの6度を用いたパッセージが大変弾きにくいがこれは当時の鍵盤幅が現代のものと違っていたためであろうか。 1790出版
ピアノ・ソナタ  ト長調 Op.25-2 第1楽章 Allegro con brio 4/4拍子。形式感があって分かりやすい。第2楽章 Un poco Allegro 2/4拍子。ハイドン風の魅力的なロンドである。 1790出版
ピアノ・ソナタ  変ロ長調 Op.25-3 第1楽章 Allegro 3/4拍子。ポラッカ風の雰囲気を持つ。どことなくモーツァルト風で流麗な音楽である。第2楽章 Vivace 2/4拍子。楽しい気分に満ちたロンド。 1790出版
ピアノ・ソナタ  イ長調 Op.25-4 第1楽章 Maestoso e cantabile 4/4拍子。第1主題は、ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ“春”」の主題と似ていることがしばしば指摘されているもの。リズムが多彩で、3度、6度、二重トリルなどクレメンティ得意の技巧も用いられる。ロマン派を予感させるような半音階的和声進行が見られるのも特徴。第2楽章 Allegro molto 2/4拍子。軽快なロンドである。音型が少しずつ変化するような工夫が見られる他、C部分が長大になり転調などでドラマティックな作りを見せている。 1790出版
ピアノ・ソナタ  嬰へ短調 Op.25-5 第1楽章は Piùttosto allegro con espressione(どちらかと言えばアレグロで、表情をもって),2/4拍子。スカルラッティを思わせる技法も用いられている。きわめて美しい第1主題が特徴である。第2楽章 Lento e patetico 2/4拍子、ロ短調。表情の変化に富み、魅力的な楽章である。第3楽章 Presto、3/8拍子。彼の得意である3度のパッセージが華やかに生かされた楽章。この楽章にもスカルラッティ風の技巧が見られる。初期のクレメンティ最高傑作と言えるのではないか。 1790出版
ピアノ・ソナタ  ニ長調 Op.25-6 第1楽章 Presto, 2/2拍子。ハイドン風の明るく軽やかな音楽。第2楽章 Un poco andante ト長調、3/4拍子。第3楽章 Rondo: Allegro assai 2/4拍子。古典派ソナタの典型的なロンドのひとつと言える。C主題の後でA主題復帰の前、perdendosi の指定があるのは興味深い。  1790出版 
ピアノ・ソナタ  ヘ長調 Op.26 第1楽章 Allegro, 2/2拍子。第2主題における伴奏の扱いなどに工夫が見られるが、これまでのソナタに比べるとそれほど個性的とは言えない。第2楽章 Allegretto, 2/4拍子。付点のリズムがほぼ全曲を支配し、何となくユーモラスな印象のある曲。ただ、全体が単調になってしまっている感もある。  1791出版 
ピアノ・ソナタ  ト短調 Op.34-2 第1楽章 Largo e sostenuto 4/4拍子〜Allegro con fuoco, 3/4拍子。序奏が再現部で復帰するソナタ形式。 再現する時にハ長調になっているのが面白い。全体はドラマティックでベートーヴェンの音楽を思わせる。第2楽章 Un poco adagio 変ホ長調 6/8拍子。規模が大きく、シンフォニックな広がりを感じさせる。第3楽章Finale: Molto allegro, 2/4拍子。展開部が見事に作られた楽章である。 1795出版 
ソナチネ ハ長調 Op.36-1 簡潔明瞭に書かれたソナチネの傑作。第1楽章 Allegro 2/2拍子、第2楽章Andante 3/4拍子、第3楽章 Vivace 3/8拍子。特に緩徐楽章の再現部が素晴らしい。  1797出版 
ソナチネ ト長調 Op.36-2 第1楽章 Allegretto 2/4拍子、この第1主題のアーティキュレーションには注意した方がよい(第2主題とは性格が違うと思われる)。第2楽章 Allegretto 3/4拍子、付点リズムによる動きのある緩徐楽章。フレーズが女性終止であることにも注意したい。第3楽章 Allegro 3/8拍子。平易なテクニックで楽想をここまで見事にまとめる書法が素晴らしい。  1797出版 
ソナチネ ハ長調 Op.36-3 第1楽章 Spiritoso 4/4拍子。再現部で推移が拡大されていることに注意したい。強弱の扱いにも洒落たセンスが光る。第2楽章 Un poco adagio 4/4拍子。子守歌風で美しい楽章。第3楽章 Allegro 2/4拍子。明るく楽しいフィナーレ。  1797出版 
ソナチネ ヘ長調 Op.36-4 第1楽章 Con Spirito 3/4拍子。16分音符のパッセージが長めに出てくるなど、「漸進的」なソナチネであることをうかがわせる。3度の動きも出て来るがこれをレガートでどのように弾くかは考えるところ。第2楽章 Andante con espressione 第1楽章の3度は音階だったがこのが楽章では同じ音程の3度和音をレガートで弾く指示となっている。つまりこのあたりでペダルを上手に使うという事の暗示だろうか。第3楽章 Allegro vivace 2/4拍子。6連符が特徴の軽快なフィナーレ。トリルの演奏である程度の技術を要する箇所が出てくる。  1797出版 
ソナチネ ト長調 Op.36-5 第1楽章 Presto 2/2拍子(4/4拍子版あり)。3連符が支配する音楽である。どことなくハイドンのソナタ Hob.35を思わせるがこの曲はハイドンと異なり推進力のある流れが特徴。第2楽章 Original Swiss Air: Allegro moderato 3/8拍子。バグパイプ風の伴奏で田園的な楽章。第3楽章 Rondo: Allegro di molto 2/4拍子。形式感があり分かりやすい。Adolf Rudhaldt版ではオリジナルとスラーが異なっているので注意したい。フィナーレのみが(勉強になるという観点からか)よく演奏されるようだ。  1797出版 
ソナチネ ニ長調 Op.36-6 第1楽章 Allegro con spirito 4/4拍子。流れるような2つの主題は美しいものである。強弱の変化に富んていて、聴いていても楽しい。第2楽章  Rondo: Allegretto spiritoso 6/8拍子。演奏で気をつけないと最初のアウフタクトが1拍目に聞こえることがある。3度のパッセージ、(和音を含む)トレモロ、トリルなど様々技術習得に役立つ。 1797出版 
ピアノ・ソナタ  ト長調 Op.37-2 第1楽章 Allegro 4/4拍子。冒頭の伴奏アウフタクトに特徴がある。ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲“大公”」などにも例がある完全シンコペーションの多用も面白い。全体はのびのびとした明るい音楽だ。第2楽章 Adagio In the solemn style(厳粛なスタイルで) ハ長調、3/4拍子。第3楽章 Allegro con spirito 2/4拍子。規模の大きなロンド。時々フェルマータをはさんだ意外性のある転調がみられる。 1798出版 
ピアノ・ソナタ  ト長調 Op.40-1 四楽章制ソナタ。第1楽章 Allegro molto vivace 2/2拍子。第2主題で複数テーマを出現させる、再現部で偽りの主題を登場させる、協奏曲風のトリル、アインガング導入など、新しい試みがみられる。第2楽章 Molto adagio, sostenuto, e cantabile ホ長調、2/4拍子。規模が大きく、華やかな装飾句を持つ。中間部はホ短調になりドラマティックな展開だ。第3楽章 Allegro Canone Imo perpetuo per moto retto/ Minore Canone Udo perpetuo; per moto contrario 3/4拍子。 厳格に書かれたカノンで構成されている。、第4楽章 Finale: Presto 2/2拍子。規模の大きなロンド。プランティンガは「ト短調から変ロ長調への移行は、まさにシューベルトのような響き」と述べている。 1802出版 
ピアノ・ソナタ  ロ短調 Op.40-2 第1楽章 Molto adagio e sostenuto 6/8拍子〜Allegro con fuoco, e con espressione 2/2拍子。Sturm und Drang 様式を思わせるドラマティックな主部が魅力。第2楽章 Largo, mesto e patetico〜Allegro 6/8拍子。序奏部は再現され、Prestoに変化する。   1802出版 
ピアノ・ソナタ  変ホ長調 Op.41 以前に書かれていた作品を改訂し、新しい緩徐楽章を加えたものらしい。 第1楽章 Allegro ma con grazia 2/2拍子。第2主題でペダルを長く踏む記号が見られる。第2楽章 Adagio molto; e con anima j変ロ長調 2/4拍子。美しい主題が華麗に装飾して展開される。第3楽章 Allegro molto vivace 3/8拍子。得意の3度のパッセージによる主題。 3連符のパッセージなど技巧的な要素が強く、演奏効果のある作品だ。 1804出版 
ピアノ・ソナタ  イ長調 Op.50-1 後期にしばしば見られる「グランド・ソナタ」のスタイル。ケルビーニに献呈と表記されている。第1楽章 Allegro maestoso e con sentimento 4/4拍子。響きが充実したピアニスティックな作風である。第2楽章 Adagio sostenuto e patetico 3/4拍子。サラバンド風の主部(バッハのイギリス組曲ト短調を思わせるもの)と、2声のカノンで構成される中間部から成る。主部にみられる減7和音の効果はかなり独特である。第3楽章 Allegro vivace 4/4拍子。様々な技巧を駆使した大作。 1821出版
ピアノ・ソナタ  ト短調 Op.50-3
「捨てられたディド」
ディド(ディードー)とはキリシャ・ローマ神話に登場する伝説上の女王で、カルタゴを建国したとされる。この伝説に基づいた作品には他にタルティーニのヴァイオリン・ソナタがある。第1楽章 Introduzione: Largo patetico e sostenuto, 3/4--Allegro, ma con espressione 3/4拍子。厳粛な気分の序奏ののち「diliberando, e meditando」という珍しい発想標語を持つアレグロとなる。コーダで Più allegroとなるのも特徴。第2楽章 Adagio dolente 6/8拍子。バロック風の「ため息の動機」がドラマティックに発展する楽章。次の楽章へ続けて演奏される。第3楽章 Allegro agitato, e con disperazione 2/4拍子。テーマ冒頭から不協和音が登場するのに驚かされる。オクターヴやトレモロの効果的使用、スカルラッティ風のアルペジオおよび終止、見事なカノンの用法など、魅力的で美しい楽章である。なお、Op.50のソナタにはメルツェル・メトロノーム表記が見られることも特徴である。 1821出版


参考文献: レオン・プランティンガ(藤江効子訳)『クレメンティ 生涯と音楽』 音楽之友社、1993


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