ピアノ協奏曲

ピアノ協奏曲 変ホ長調 WoO 4

ボン時代の1784年に書かれた作品。ピアノ独奏譜のみが残されており、出版はブライトコプフ&ヘルテルにより1890年。研究家(ヴィリー・ヘス)による復元版は1943年に行われた。
第1楽章  アレグロ・モデラート 変ホ長調、4/4拍子、ソナタ形式。
第2楽章  ラルゲット 変ロ長調、3/4拍子、三部形式。
第3楽章  ロンド  アレグレット、変ホ長調、2/4拍子。

ロンド  変ロ長調 WoO 6  1793年作曲。
ピアノ協奏曲第2番のフィナーレとして書かれたものと推定される作品。ベートーヴェンの死後発見され、1829年にウィーンのディアベリ社より出版された。ディアベリによれば未完成の作品だったものをチェルニーが完成させたという。

ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調  作品19  1786?〜1797年作曲。第1稿から第4項まであり、古いものはネーフェの指導を受けていたころのものと言われている。

第1楽章  アレグロ・コン・ブリオ、変ロ長調、4/4拍子。力強い第1主題で始まるが、呈示部はモーツァルト風の優雅な気分が支配する。第2主題は独奏ピアノが登場したのちにヴァイオリンで奏される。古典派らしい均整の取れた形式感を持つ楽章である。
第2楽章  アダージョ、変ホ長調、3/4拍子。初期ベートーヴェンの緩徐楽章らしい美しい旋律が、変奏的装飾によって彩られてゆく楽章。第22小節、第41〜46、第67小節など、精緻なパッセージの書き方が見られ、これはその後もベートーヴェンのひとつの特徴となってゆくものである。
第3楽章  ロンド  アレグロ・モルト。かっこうの鳴き声のような3度の下行形が印象的な主題。ピアノは様々な技巧で華麗に演奏してゆくが、第82〜93小節での休符を挟んだパッセージ、第254小節からの同様のパッセージが途切れながら進行してゆく部分はのちの「熱情」ソナタを思わせるものがある。第299小節は「田園」交響曲の第2楽章を思わせる。

ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調  作品15  1793〜1800年作曲。

第1楽章  アレグロ・コン・ブリオ  ハ長調、4/4拍子。雄大な気分を感じさせる楽章で、ピアノの名人的技巧も高度に用いられている。特徴的なのは再現部直前の右手グリッサンドで、現代のピアノでは演奏不可能に等しい(オクターヴ上から弾く人も時々いるが時代考証的にはあまり賛成できない)。第2主題が変ホ長調(3度上)であることや、大胆な転調は当時の聴衆を惑わせたらしい。
第2楽章  ラルゴ  変イ長調、4/4拍子、三部形式。初期ベートーヴェンらしい、美しい緩徐楽章。交響曲でも特徴的である、チェロとコントラバスの自立した書法も現れている。
第3楽章  ロンド  アレグロ  ハ長調、2/4拍子。重音で登場するリズミカルなA主題、スフォルファンドが2拍目の裏にあるB主題、16分音符3つのアウフタクトを持つC主題。いずれもリズム的な特徴を示し、そのためこの楽章はスケルツァンドな性格を持つことになっている。C主題で左手がオクターブを超えた跳躍を示しているが、この手法は「ピアノソナタ第2番」以降、ベートーヴェン作品の伴奏形を多彩なものにすることになった。

ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調  作品37
 1796〜1803年作曲。本格的な作曲は1800年ころから行われ、1803、エラールから5オクターヴ半の音域をもつピアノを贈られたこととも関連している。

第1楽章  アレグロ・コン・ブリオ、ハ短調、4/4拍子(2/2拍子と表記したエディションもある)。第1主題は弦楽器で奏される厳粛な気分のもの、第2主題はクラリネットとヴァイオリンで明るく奏される。全体が443小節という長大な楽章で、展開部などでの管弦楽とピアノのアンサンブルの充実はこの楽章の大きな特徴となっている。
第2楽章  ラルゴ、ホ長調、3/8拍子。ピアノによる敬虔な祈りのような主題が奏され、その後もピアノが主体となって歌ってゆく。弦楽器は弱音器を付けた響きで伴奏を行うが、中間部ではファゴット、フルートの旋律をピアノの分散和音が彩ってゆく。この部分での「senza sordino」「con sordino」の区別はこの時代の書き方して興味深い。
第3楽章  ロンド  アレグロ、ハ短調 2/4拍子。前楽章の終止音 Gis と 主題のG-As の関連は調感覚として面白い。属和音から始まり、ト短調で終止するという、ベートーヴェン独特の和声感覚である。第26節で半終止となり、モーツァルトによくみられるアインガングが現れるが、ベートーヴェンの場合は楽譜に書かれたものである。B主題は逆付点リズムによる軽快な変ホ長調で現れ、ピアノは3連符で華やかに展開してゆく。C主題は変イ長調でのびのびと歌われる美しいもの。その後フガートも現れ、変化に富んだ内容を見せる。コーダはプレスト、ハ長調となり活発に曲を閉じる。

ピアノ協奏曲 第4番 ト長調  作品58 1805〜06年作曲。

第1楽章  アレグロ・モデラート、ト長調、4/4拍子。冒頭からピアノによる主題が提示される。かつてピアノが冒頭から登場したのはモーツァルト「ピアノ協奏曲第9番(ジュノーム)」などがあったが、オーケストラとの掛け合いで登場するものだったので、ベートーヴェンの手法は新しい。この作品はロマン派ピアノ協奏曲への流れを切り開いたと言える。その後すぐにオーケストラがロ長調で受け継ぐ調感覚が独特である。第2主題はヴァイオリンで歌われるイ短調〜ホ短調の部分(第29小節より)と普通は言われているが、調性的には第119小節からのニ長調の旋律(ヴァイオリン)の箇所が相応しい(ピアノ・ソナタ第3番や第7番にみられるような第2主題の登場方法も参照)。しかし旋律的な印象は前者にあることも事実であり、よくわからないところだ。ピアノによる高音域の美しさがこの楽章では際立っており、技法の面でも今までにない成熟を感じさせる。
第2楽章  アンダンテ・コン・モート、ホ短調、2/4拍子。オーケストラとピアノの美しく悲劇的な対話。最初は威圧的な感もあるオーケストラは後半にはdim. となり、ピアノの悲痛な旋律の後カデンツァとなり、静かに曲を閉じる。
第3楽章  ロンド  ヴィヴァーチェ、ハ長調、2/4拍子。軽快なロンド。主題はハ長調に聞こえるが終止はト長調となるベートーヴェン特有の手法。

ピアノ協奏曲 ニ長調 作品61
1807年作曲。

ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品61のピアノ編曲版。クレメンティの要請により書かれたものである。編曲者がべートーヴェンではないとする説もあったが、現在では児島新による研究などからベートーヴェンによるもので間違いないとされている。作曲者による4つのカデンツァが残されていることが重要で、特に第1楽章のカデンツァにティンパニを用いるなどの斬新さがある。

ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調  作品73  1809年作曲。 「皇帝」の名で知られる名作。

第1楽章  アレグロ、変ホ長調、4/4拍子。管弦楽のトゥッティに続いて独奏のカデンツァ風パッセージが奏されるという新しい協奏曲のスタイル。この楽章には本来カデンツァが演奏されるところに「Non si fa una Cadenza, ma s'attacca subito il seguente」と書かれており、協奏曲の魅力の一つと言われていたカデンツァを廃止している。雄大な構成を持つ楽章で、全582小節という長さである。
第2楽章  アダージョ・ウン・ポーコ・モッソ、ロ長調、4/4拍子。調の選択はあまり例のないものであるが、第1楽章の終止音「変ホ」がこの楽章の開始音「嬰ニ」と異名同音であることから選択した可能性はあると思う。チェルニーは「敬虔な巡礼が唱える宗教的な調べを想像しながら、ベートーヴェンはこの楽章を書いたに違いありません」と言っている。最後の部分で次の楽章を予感する楽想が登場するところの効果は素晴らしい。
第3楽章  ロンド  アレグロ、変ホ長調、6/8拍子。実に堂々としたロンド主題。ヴィルトゥオーソ的技巧が全曲を通じて発揮される輝かしい楽章で、古今東西の「ピアノ協奏曲」の中でも最も演奏効果のある一曲といえるだろう。

なお、この協奏曲については「この曲の堂々たる威容と絢爛豪華な趣は、まさにピアノ協奏曲の中の皇帝というに相応しい(宇野功芳)」と最高の賛辞を贈る人、また「どうして人気があるのか私には分らない(五味康祐)」と言う人があり、評価もいろいろである。そのあたりも興味深い。
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