シューベルトのピアノ作品

シューベルトの作品は、有名なものとしては「即興曲集」「楽興の時」がありますが、ピアノ・ソナタをリサイタルで取り上げる演奏家も増えてきています。しかし私はピアノ・ソナタを聴いて感動したことは非常に少なく、それがなぜかは分かっていません。 演奏時間が長い、カンタービレの表現が難しい、繰り返しが多くベートーヴェンのような深さがない、など言われることもありますが、シューベルトは演奏者と聴き手で理解の感覚が違うのでは、という仮説を立てて検証しようかと思っているところです。

シューベルトの音楽の素晴らしさは、やはり歌曲にあるでしょう。歌曲の伴奏を手がけてみると独奏曲だけではわからない部分が見えてくるような気がします。常識的なことですが、ピアノ学習者たちは歌曲の伴奏を経験したほうが良いとシューベルトに関しては特に思うのです。

ピアノ・ソナタの番号は「ウィーン原典版」に従っています。なお、この頁では印象に残った演奏についても記してあります(実演が基本ですが録音も含みます)。


ピアノ独奏作品

ピアノ・ソナタ(第1番)ホ長調 D 157 (1815)
メヌエットで終わっている未完成の作品。ホ短調の第2楽章が歌曲風で美しい。

ピアノ・ソナタ(第2番)ハ長調 D 279(1815)
この曲もメヌエットまでの未完成作品。第1楽章主題はユニゾンで力強く、第2楽章はヘ長調で古典的な美しさを見せる。

ピアノ・ソナタ(第3番)ホ長調 D 459(1816)
「五つの小品」として出版されたもの。1〜2、3〜5楽章と別々に構想されたらしい。楽想の変化に富んだ第1楽章、シューベルトらしい美しさのアダージョ、そして独特のリズム感に満ちた最終楽章が魅力的である。
★ 演奏上の問題点:第2楽章に出てくる分散オクターヴ(上から下へ)が見た目以上に演奏困難だと思う。ペダルとの関連にも注意したいパッセージだ。
★ 印象に残った演奏: スヴャトスラフ・リヒテル(1980.6.18 ホーエネムス城でのライヴ録音)

ピアノ・ソナタ(第4番)イ短調 D 537,Op.164(1817)
力強い和音のテーマで始まる(ブラームス的と言えるかも)第1楽章、後の遺作ソナタでも用いられた主題の第2楽章が素晴らしい。

ピアノ・ソナタ(第5番)変イ長調 D 557(1817)
ハイドン風の第1楽章、有名なイ長調(D 664)の終楽章に似ている終楽章が特徴。

ピアノ・ソナタ(第6番)ホ短調 D 566(1817)
初期の名作。第2楽章はその雰囲気からしばしばベートーヴェンの「ピアノソナタ第27番Op.90」の緩徐楽章と比べられる。最終楽章は「ロンド D 506」。

ピアノ・ソナタ(第7番)変ニ長調 D 567(1817)
第3楽章の途中で未完となっている。続く「D 568」の旧稿とされる曲。

ピアノ・ソナタ(第8番)変ホ長調 D 568,Op.122(1817/1826改訂?)
古典的で明るい魅力にあふれた作品。最終楽章は愛らしい美しさに満ちている。

ピアノ・ソナタ(第9番)嬰へ短調 D 571(1817)
第1楽章と第4楽章が未完成の作品。第2楽章は「D 604」、第3楽章は「D 570」、第4楽章は「D 570」とDeutsch番号が付けられている。旧全集では第3・第4楽章は「アレグロとスケルツォ」として別の曲だった。
★演奏上の問題点:第1楽章第1主題は普通はペダルを用いて演奏すると思うのだがスタッカートをどう感じて弾くかという問題。というのは展開部、第114小節に現れるバスの動機は音を切った方が良いように思うので。 この曲の楽想をどのように理解したら良いのか今でも分かっていないのが残念だ。もしかすると弦楽四重奏などに編曲したほうが良いのかと思ったりもする。

ピアノ・ソナタ(第10番)ロ長調 D 575
第1楽章は、付点リズムを特徴とする個性的な主題が面白い。第2主題はどこか歌曲を思わせる軽やかさ。ダイナミックスの幅広さも特徴である。緩徐楽章も魅力的な主題と劇的展開で聴かせる充実した作品。
★ 印象に残った演奏: スヴャトスラフ・リヒテル(1979.2.21 新宿・厚生年金会館)

ピアノ・ソナタ(第11番)ハ長調 D 613(1818)
第1・第3楽章は未完成。第2楽章(D 612)は「さすらい人幻想曲」の第2楽章を思わせる細かい装飾音型が見られ、全体的にもピアニスティックな傾向を進めた作品として注目される。

ピアノ・ソナタ(第12番)ヘ短調 D 625(1818)
第1・第4楽章は未完成。第3楽章は「D 505」。第4楽章は少し補填すれば演奏可能なこと、第1楽章が「熱情」ソナタ風の魅力を持っていることからしばしば演奏される。第1楽章の補完方法については各エディションでさまざまな方法がとられている。
★ 印象に残った演奏: スヴャトスラフ・リヒテル(1979.2.21 新宿・厚生年金会館)

ピアノ・ソナタ(第13番)イ長調 D 664(1819)
最もよく知られたソナタ。ピアノ五重奏曲「ます」と同じ時期の作品。第1楽章は歌謡性が強く、それゆえソナタ形式としての有機的展開には乏しい。第2楽章は美しい旋律の緩徐楽章。第32小節の転調はまさにシューベルト的と言えるだろう。第3楽章は明るく爽やかなロンドである。
★ 印象に残った演奏: スヴャトスラフ・リヒテル(1979.2.21 新宿・厚生年金会館)

ピアノ・ソナタ(第14番)イ短調 D 784(1823)
ドラマティックな傑作。第1楽章主題は交響曲風のもので、休符の扱いに独特の緊張感がある。シューマンは「シューベルトの最もすぐれたソナタ」と評した。
★ 印象に残った演奏: スヴャトスラフ・リヒテル(1979.2.21 新宿・厚生年金会館)/森正(2015.4.29 東京オペラシティ リサイタルホール)

ピアノ・ソナタ(第15番)ハ長調 D 840「レリーク」(1825)
「遺品」という名前が1861年の出版の際に付けられた。第3・第4楽章は未完成だが、補完版もありしばしば演奏される。「イ短調 D 845」と双生児の関係である作品との指摘もある。第2楽章が美しい。冒頭の主題が繰り返される際の借用和音はモーツァルト「魔笛」のアリア「愛の喜びは露と消え」を思わせる。

ピアノ・ソナタ(第16番)イ短調 D 845,Op.42(1825)
意志の力を感じさせる第1楽章、穏やかで安らぎに満ちた第2楽章、軽やかなフィナーレなどが特徴と言えるが、なぜか名演が少ないような気もする。

ピアノ・ソナタ(第17番)ニ長調 D 850(1825)
シンフォニックで明るいソナタ。第1楽章は楽想が豊富で、シューベルトにしては音が饒舌にも感じられる。長大だがメロディーの美しい第2楽章、リズミカルで楽しい第3楽章スケルツォは魅力的である。フィナーレも親しみやすい。

ピアノ・ソナタ(第18番)ト長調 D 850(1826)
「幻想」というタイトルはハスリンガー社が第1楽章に対して付けたもの。シューマンが絶賛しているのだが、この曲も名演に遭遇することが少ない。

ピアノ・ソナタ(第19番)ハ短調 D 958(1828)
後期「3大ソナタ」の第1曲。第1楽章テーマはベートーヴェンの「32の変奏曲」との関連がしばしば指摘される。フィナーレは同じくベートーヴェンの「第18番」の第4楽章のようである。全曲はなかなか長大だ。
★ 印象に残った演奏: 椎野伸一(2012.12.2 紀尾井ホール)

ピアノ・ソナタ(第20番)イ長調 D 959(1828)
悲劇的な第2楽章が素晴らしい。
★演奏上の問題点: 第1楽章第112、313小節などの長い休符は正確に演奏しないと次の旋律の拍が何拍目なのか分かりにくくなる。拍節の捉え方が重要になる所だと思う。

ピアノ・ソナタ(第21番)変ロ長調 D 960(1828)
最高傑作と評される。この曲の魅力は演奏者によって違ったものがあると思う。
★ 印象に残った演奏: ルドルフ・ゼルキン(1978.3.9 神奈川県民ホール)

4つの即興曲 D 899[Op.90](1827頃)
本来は連続した番号を付けるはずだったらしく、シューベルトは8曲をまとめて出版することを望んでいた。 ハスリンガーがD 899の最初の2曲のみを出版することになったことなど、出版に至る経緯は難しいものがあったようだ。 D 899(Op.90)の第1番はテーマと変奏、 第2番は無窮動(トリオはスケルツォ風)、第3番は無言歌風、第4番はアラベスク、と自由自在な作風を見せる傑作。

4つの即興曲 D 935[Op.142] (1827)
第1番はA-B-C-A´-B´-C´A´形式で、ソナタの第1楽章とも考えられるが(シューマンの説)、シューベルトの第1楽章の典型とはやや異なる自由さを持っている。 第2番はサラバンドのようなリズムだがテンポはアレグレット。 第3番は主題と変奏で、このテーマは「ロザムンデ」の間奏曲と同じ。 第4番は舞曲風でハンガリーの香りがする。楽想の変化は全く天衣無縫と言うべき素晴らしさである。コーダにみられる和声進行はのちのブラームス「ピアノ五重奏曲」のフィナーレにも共通する。
★ 印象に残った演奏:木村徹(2013.10.24 ヤマハ銀座店コンサートサロン)

楽興の時 D 780[Op.94](1828)
「性格的小品」の典型。第1番は朝のすがすがしい空気を感じさせるような爽やかさ、 第2番はのちのラフマニノフが好んだリズムを繰り返し使うが穏やかな情緒をもつ。中間部は単純な伴奏の上に悲劇的な旋律が歌われる。 第3番は有名な一曲で、1823年に「ロシア風の旋律」として出版された経緯がある。 第4番はアラベスク風の動きを持つ主部とシンコペーションの中間部が異名同調の関係。 第5番はシューベルトが好んだ「ダクチュルス」リズムの激しい一曲。 第6番は1824年に独立して出版された際には「トルバドゥールの嘆き声」とタイトルがあったらしい。

ハンガリーのメロディ  ロ短調 D 817(1824)
連弾用作品「ハンガリー風ディヴェルティメント」第3楽章にも使われている旋律。「楽興の時」第3番のような伴奏形のオスティナートが特徴で、哀愁漂う一曲。

アレグレット ハ短調 D 915(1827)
「わが親愛なる友ヴァルヒャーへの記念として・・1827年4月26日、ウィーン」という献辞が付けられた一曲。単純素朴な構成の中にも深い情緒を感じさせる名作。

3つのピアノ曲 D 946(1828)
「規模の大きい『楽興の時』」とヴァルター・ドュルは評した。第2曲の二つ目の中間部はシューベルト作品中でもとりわけ美しい。

幻想曲ハ長調 D 760[Op.15]「さすらい人」(1822)
楽章間の動機統一がきわめて高度な形で表れた傑作。シューベルトとしてはかなり力強い性格を持つがそれゆえ単調な演奏になることも多いので要注意。


ピアノ連弾作品 (重要な作品についてのみ記載します)

連弾という演奏形態は、現代の我々が考えるより、かつてはかなり生活に浸透したものだったと思われます。人々は音楽を、現代人が放送やレコードで楽しむように気軽に「演奏」という手段で楽しんでいたと言えるでしょう。その響きの豊かさから、モーツァルトやベートーヴェンの交響曲などを編曲して楽しむことも古典派時代から流行していたのだが、本格的な連弾作品を残した作曲家としてシューベルトの名は忘れることができません。 シューベルトの連弾作品は、「シューベルティアーデ」と呼ばれた友人たちとの演奏会などを目的として書かれたものと言われていますが、当時のウィーン社会で連弾が流行していたこともあって、その数は非常に多くなっています。

3つの英雄的行進曲 D 602
第1曲 Allegro moderato、2/2拍子、ロ短調。重々しい足取りを感じさせる主部。オスティナートの伴奏が特徴のトリオ。第2曲 Maestoso、2/2拍子、ハ長調。アウフタクトで開始される。響きが豊かで。活発な楽想である。第3曲 Moderato、2/2拍子、ニ長調。軽やかなリズムが特徴の作品。トリオはプリモがカノンによる美しい旋律を奏でる。3曲に個性の違いがあり、続けて聴いて楽しい作品だと思う。

3つの軍隊行進曲 D 733
人気の高い作品で、「第1番」はしばしば管弦楽編曲でも演奏される。

ソナタ ハ長調《グラン・デュオ》D 812
シューマンはこの作品について「まだベートーヴェンの影響を脱けていないように思われ、原稿には彼のれっきとした自筆で、色々な憶測を封ずる意思を窺わせるかの如く、「四手用ソナタ」と書きこんであるが、それを見るまでは、僕はむしろピアノに移された交響曲と考えたくらいだった」と言っている(吉田秀和訳『音楽と音楽家』より)。たしかにオーケストラを思わせるような楽想であるように思われ、ヨアヒムなどによるオーケストレイションの試みがあることも頷けるように思う。
第1楽章 Allegro moderato、ハ長調、2/2拍子、ソナタ形式。第2楽章 Andante、変イ長調、3/8拍子、(形式については考察中/シューマンは「ベートーヴェンの第2交響曲のアンダンテを思わせる」と言っている)。第3楽章 Scherzo Allegro vivace、3/4拍子、ハ長調。トリオはヘ短調に転調する。第4楽章 Allegro vivace、ハ長調、2/4拍子。イ短調のように聞こえるがすぐにハ長調となる。このような調性感覚はハイドン(弦楽四重奏曲ロ短調 Op.33-1)、ベートーヴェン(弦楽四重奏曲 Op.59-2など)にもみられた。全体は無窮動風の音楽である。この楽章の終止はなかなか面白い。

自作の主題による変奏曲 D 813
主題は Allegretto、変イ長調、4/4拍子。ゼレチュのエステルハージィ伯爵家に滞在中、1824年に作曲されたと考えられている。当時から高く評価されていたことがよく分かる優れた作品で、ピアノ演奏技巧も変化に富んでいる。第7変奏の深い情緒は特に素晴らしい。

ハンガリー風ディヴェルティメント D 818
この曲もゼレチュに滞在中(1824)に着手され、ウィーンで完成されたと思われる(ベーレンライター版解説)。第3楽章は「ハンガリーのメロディー D 817」と同じ旋律。

6つの大行進曲 D 819
「シューベルトがゼレチュに滞在していた1818年と1824年の夏から秋にかけての両方の時期に作曲されたと想定されよう」とベーレンライター版の解説にある。第1曲 Allegro maestoso 変ホ長調、4/4拍子。華やかで明るい、連弾らしい豊かな響きを持つ。3連符が祝祭的な気分を高める特徴がある。トリオは変イ長調で、時々短調に転調する所が非常に美しい。第2曲 Allegro ma non troppo ト短調、4/4拍子。冒頭に現れる動機をプリモ、セコンドで模倣しながら進行してゆく曲。トリオはト長調で穏やかな楽想となる。第3曲 Allegretto ロ短調 2/4拍子。ロ短調で始まるがすぐにニ長調〜嬰へ短調などと転調する。トリオはロ長調。全体的に「軍隊行進曲」風のリズムが特徴である。第4曲 Allegro maestoso 4/4拍子、ニ長調。第1曲と似た祝祭的気分。第5曲 Andante 4/4拍子、変ホ短調。葬送行進曲の性格を持つ。第6曲 Allegro con brio ホ長調、4/4拍子。付点音符のリズムが支配的で、軽快な曲想である。

フランス風主題によるディヴェルティメント D 823
三楽章からなるディヴェルティメント。第1楽章が「華麗な行進曲の形式によるディヴェルティメント 作品63」として1826年に、第2・3楽章が「アンダンティーノ・ヴァリエと華麗なるロンド 作品84」として1827年に出版された事情についてはよく分かっていない。第1楽章はホ短調、Tempo di Marcia 4/4拍子。堂々たる行進曲主題とト長調の第2主題との対比が素晴らしい(特にプリモの高音の扱い)。第2楽章は美しい旋律に基づく変奏曲で、この分野(変奏曲)の名作の一つと言える。第3楽章 Allegretto ホ短調、2/4拍子。シューベルトらしい「長短々」のリズムがかなりの部分を支配する音楽。

大葬送行進曲 ロシア皇帝アレキサンダーT世の逝去に寄せて D 859
ベーレンライター版の解説によれば「アレキザンダーT世は1815年のウィーン会議期間中ウィーンの民衆によく知られるようになった」とあり、そこで「出版社 A.Pennauer は1825年12月1日の皇帝の逝去の知らせのすぐ後に葬送行進曲の出版計画を立ていたのかもしれない、と書いてある。ただ「シューベルトが特にこの動機のために作曲したかどうかは分からない」し、「すでに以前に成立していたかもしれない」とのこと。この時代の作曲経緯についてはまだよく分かっていない点が多いと思う。Andante sostenuto ハ短調、2/2拍子。

大英雄的行進曲 ロシア皇帝ニコライT世の即位式に寄せて D 885
1826年9月の出版。ロシアの新帝ニコライT世の即位に寄せて書かれた作品と言われる。この作品も「シューベルトが特にこの動機のために作曲したかどうかはわからない」とベーレンライター版の解説には書いてある。Maestoso―Allegro giusto イ短調、4/4拍子。2つのトリオ及びコーダを持つ構成。

2つの性格的行進曲 D 886(D 968B)
2曲とも 6/8 で書かれた行進曲。シューベルトの死の1年後、1829年に出版された。友人の手紙から1826年の早期に作曲されたとする説もある。第1曲は3度進行による元気な主部と叙情的なイ短調のトリオとの対比が見事。第2曲は pp で静かに開始される曲で、シューベルトらしい転調の面白さがある。この曲もイ短調のトリオが美しい。

幻想曲 ヘ短調 D 940
1828年作曲。シューベルト晩年の傑作である。第1部「Allegro molto moderato」は哀愁漂う旋律が美しく、バロックの序曲風から嬰へ長調の穏やかな部分へと転ずる第2部「Largo」、スケルツォ風の第3部「Allegro vivace」、そして第4部「Tempo T」という構成で、この分野の作品としてはかなり大規模な長さとなっている。楽想は変化に富み、ピアノの表現力が最大限に発揮されている。「セコンドは伴奏、プリモは旋律」といった普通の連弾のスタイルを超越した複雑な書法であり、演奏もかなり難しい。また、音楽内容としては、彼が家庭教師として教えたことがあるカロリーネ・エステルハージ伯爵令嬢に献呈されたことから、彼女への愛が反映した作品ともみられている。

アレグロ イ短調(性格的アレグロ「人生の嵐」) D 947
この作品も1828年に作られ、「幻想曲 ヘ短調」とともに連弾曲の傑作として知られている。2/2拍子、アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ソナタ形式。第2主題でセコンドがオクターヴで奏するシンコペーションの動きに特徴がある。ところでこの曲のタイトルは「ふさわしい」という意見と「曲の内容には似つかわしくない」という意見があって、実に興味深い。

ロンド イ長調 D 951
1828年作曲。Allegretto quasi Andantino、イ長調、2/4拍子、大ロンド形式。この作品も晩年の名作のひとつである。美しい主題は名作「ピアノソナタ D664」を思わせる雰囲気があり、全体は幸福な気分に包まれている。なお、この作品がソナタの終楽章であるという意見もあるが、現在のところよく分かっていない。

BACK