チャイコフスキーのピアノ作品

チャイコフスキーという作曲家について、いったいどれ位知られているでしょうか? 「ピアノ協奏曲第1番」「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「交響曲第4番」「交響曲第5番」「交響曲第6番“悲愴”」などは有名ですが、ピアノ曲ではどうでしょう。「四季」「子供のためのアルバム」程度ではないでしょうか? このページでは、そんなチャイコフスキーのピアノ作品について全貌を知ろうという姿勢のもとに、楽譜を見て演奏してみた、あるいは他者の演奏を聴いてみた時の感想を記すこととします。魅力的な作品はかなりたくさんありました。参考楽譜は“KALMUS PIANO SERIES(Belwin Mils)”。

ピアノ独奏曲

作品名 作曲年 特徴など
アナスターシャ・ワルツ ヘ長調 1854 最初のピアノ作品。
<川のほとり・橋のほとり>の主題による変奏曲 1862 *
アレグロ ヘ短調 1863〜64 未完成作品。アレグロ、6/8拍子。
主題と変奏 イ短調 1863〜64 テーマはアンダンテ・センプリーチェ、イ短調、3/4拍子。簡潔だが非常に美しい。Var.1,2あたりは古典的な変奏であまり強い印象はないが、Var.4からはまさしくチャイコフスキーの音楽で、のちの傑作に見られるような音形も登場。Var.5はまるで交響曲の世界だ。Var.9(最終変奏)のピアニズムも見事。もっと演奏されてよい作品だ。
ソナタ 嬰ハ短調 Op.80(遺作) 1865 器楽作品としての最初の大作。第1楽章はアレグロ・コン・フオーコ、嬰ハ短調。古典的な第1主題と叙情的な第2主題の対比がすばらしい。第2楽章はアンダンテ、イ長調。バレエの一場面を見るような美しい旋律で、オーケストラ曲に編曲してみたい楽章。第3楽章はスケルツォ、アレグロ・ヴィヴォ、嬰ハ短調。リズムに特徴を持ち、終結部でテンポをさまざまに変化させた後に最終楽章へ続けて演奏される。第4楽章はアレグロ・ヴィヴォ、嬰ハ短調。エネルギッシュな第1主題とコラール風な第2主題。最後は変ニ長調に転じて輝かしく終わるが、コーダがややあっさりしている印象もある。
2つの小品  Op.1
[1. ロシア風スケルツォ(変ロ長調)/2. 即興曲(変ホ短調)]
1867 第1曲はアレグロ・モデラート、変ロ長調、2/4拍子。独特の情緒を持ち、バラキレフ的な(?)ピアニズムが感じられる作品である。スリマ・ストラヴィンスキーによる2台ピアノ版があり、これはかなり面白い。第2曲はアレグロ・フリオーソ、3/4拍子、変ホ短調。3連符が支配する情熱的な楽想。
ハープサルの思い出 Op.2
[1. 城跡(ホ短調)/2. スケルツォ(ヘ長調)/3. 無言歌(ヘ長調)]
1867 ハープサルの思い出に関係した作品は第1曲「城跡」のみで、他の2曲は1868年ユルゲンソン社から出版する際に組み合わされた。「ハープサル」とは1867年の夏休み中、チャイコフスキーが弟アナトーリと一緒に訪れた土地で、妹アレクサンドラが嫁いだダヴィドフ家の別荘があった場所。第1曲:アダージョ・ミステリオーソ、ホ短調、2/4拍子。感傷的な主題で始まるが中間部はハ長調、アレグロ・モルトに転じ、勇壮な舞曲調になる。第2曲:アレグロ・ヴィヴォ、ヘ長調、3/8拍子。軽快な主部と、アルペジオに彩られたメロディーの中間部が見事な対比をなす。第3曲:はアレグレット・グラツィオーソ・エ・カンタービレ、ヘ長調、3/4拍子。単独でしばしば演奏される作品で、安らぎに満ちた美しい音楽である。
ヴァルス・カプリス ニ長調 Op.4 1868 主部はフォーレ風の音楽。中間部のメランコリックな雰囲気に作曲者の特徴を感じる。コーダではプレストになり、リスト風の華麗なテクニックが繰り広げれらる。
ロマンス ヘ短調 Op.5 1868 献呈されたのは歌手のデジレ・アルトー。彼女への愛が表れた作品と言われる曲で、哀愁を帯びた美しい旋律。中間部は変ニ長調、アレグロ・エネルジーコとなり、トレパーク風の激しい曲想となる。
ヴァルス・スケルツォ イ長調Op.7 1870 装飾音のついた主題が面白い。中間部はバスの保続音の上に穏やかな旋律が現れるもので、ヘ長調への唐突な転調。その後イ短調〜ハ長調と変わり、物憂げな雰囲気をかもし出す。再現部のあと、最後にもう一度中間部の旋律が出現し、最後はイ短調で寂しく終わる。全体はお洒落でサロン風の小品として非常に良くまとまっている。
カプリッチョ 変ト長調 Op.8 1870 アレグロ・ジュスト、3/4拍子。ポロネーズの第1拍をオスティナートにしたような独特の楽想で、時々4/4拍子に変化する。中間部はアンダンテとなり、ハープのようなアルペジオに乗って中音域でセレナード風の旋律が歌われる。再現部では音の厚みが増していて、ブリランテな効果をあげている。
3つの小品 Op.9
[1. 夢(ニ長調)/2. サロンのポルカ(変ロ長調)/3. サロンのマズルカ(ニ短調)]
1870 第1曲はアンダンテ・カプリツィオーソ、3/4拍子。中音域で歌われる旋律はヴィオラのような感じ。中間部はメノ・モッソとなり穏かな旋律が歌われる。第2曲はアンダンテ・モデラート、2/4拍子。スタカートが多く用いられる軽快で華やかな作品。第3曲は3/8拍子で速度標語はない。上品で味わいのある1曲。
2つの小品 Op.10
[1. ノクターン(ヘ長調)/2. ユモレスク(ト長調)]
1871〜72 第1曲:アンダンテ・カンタービレ、2/4拍子。夢見るような美しい夜想曲で、中間部の転調がすばらしい。第2曲:アレグレット・スケルツァンド、2/4拍子。和声的な動きがリズミカルで楽しい。中間部のメロディーはフランス民謡と関係があるそうだ。
6つの小品 Op.19
[1. 夕べの夢(ト短調)/2. ユーモラスなスケルツォ(ニ長調)/3. アルバムのページ(ニ長調)/4. ノクターン(嬰ハ短調)/5. カプリッチョーソ(変ロ長調)/6. 自作の主題と変奏(ヘ長調)]
1873 第1曲:アンダンテ・エスプレッシーヴォ、3/4拍子。ひばりのさえずりにしばしば譬えられるメロディーが模倣しながら進行する主部。中間部はト長調に転ずるが情緒は常に穏やかである。第2曲: アレグロ・ヴィヴァーチッシモ、3/8拍子。ヘミオラを多用して目まぐるしく動く主部と変ホ長調、メノ・モッソの中間部の対比が鮮やか。中間部での右手がB♭に固定されて次々と転調をしていく部分はなかなか新鮮だ。第3曲:アレグレット・センプリーチェ、2/4拍子。初期ロマン派の小品を思わせる簡潔な書法の作品。第4曲:アンダンテ・センティメンターレ、4/4拍子。有名なノクターンである。中間部はイ長調、ピウ・モッソに変化。再現部はテーマが左手に移り、右手により美しいオブリガートが演奏される。第5曲:アレグレット・センプリーチェ、2/4拍子。主部はのどかな情景を思わせるが、中間部で突然アレグロ・ヴィヴァーチッシモとなり疾風が駆け抜けるかのよう。再現部はもとの旋律がオクターヴで現れる。第6曲: テーマはアンダンテ・ノン・タント、3/4拍子。変奏は12曲あり、それぞれ個性豊かで魅力的である。かなり規模の大きい作品だ。
1つの主題による6つの小品 Op.21
[1. プレリュード(嬰ト短調)/2, 4声のフーガ(嬰ト短調)/3. 即興曲(嬰ハ短調)/4. 葬送行進曲(変イ短調)/5, マズルカ(変イ短調)/6. スケルツォ(変イ長調)]
1873 この作品はアントン・ルビンシテインに捧げられたが、10年くらい経ってからようやく演奏されるようになったという話である。第1曲「プレリュード(アレグロ・モデラート)」に示される旋律は4/4拍子と3/2拍子が交替する独特のもの。第2曲「4声のフーガ(アンダンテ、4/4拍子)」は。この時代では珍しくなったフーガだが、チャイコフスキーらしい情緒の作品だ。第3曲「即興曲(アレグロ・モルト、4/4拍子)」は揺れるような3連符の動きが幻想的である。第4曲「葬送行進曲(モデラート、テンポ・ディ・マルチャ)」はこの様式特有のリズムは見られないが、雰囲気は充分であり、変イ短調という珍しい調が暗い色彩感を演出する。後半には「怒りの日」の有名な旋律も登場する。第5曲「マズルカ(アレグロ・モデラート、3/8拍子)」はエキゾティックなメロディーが聴かれるが、だんだんショパン風な楽想になる。第6曲「スケルツォ(アレグロ・ヴィヴァーチェ、6/8拍子)」はポリリズム的な特徴を持つ、リズミックな作品。最後を締めくくるにふさわしい演奏効果のある作品。ところで変奏曲ではなく「小品集」と名づけたねらいは何だろう。
四季 Op.37bis
1月−炉端で(イ長調)
2月−謝肉祭(ニ長調)
3月−ひばりの歌(ト短調)
4月−松雪草(変ロ長調)
5月−白夜(ト長調)
6月−舟歌(ト短調)
7月−草刈人の歌(変ホ長調)
8月−収穫(ロ短調)
9月−狩(ト長調)
10月−秋の歌(ニ短調)
11月−トロイカで(ホ長調)
12月−クリスマス(変イ長調)
1875〜76 「12の性格的小品」というのが副題。ロシアの旧暦に基づいているため、現在のわれわれからすると多少季節感がずれていることに注意。それぞれに詩がつけられているが、一部で触れた以外は省略する。第1曲:モデラート・センプリーチェ、マ・エスプレッシーヴォ、3/4拍子。暖かな情緒に満ちた主部だが、中間部はホ短調、問いかけるようなメロディーとアルペジオの交替が異常なほど繰り返されるのが特徴。第2曲:アレグロ・ジュスト、2/4拍子。楽しい気分に満ちた1曲である。第3曲:アンダンティーノ・エスプレッシーヴォ、2/4拍子。「子供のアルバム」の同名作品と違って、短調の暗い響きが特徴である。第4曲:アレグレット・コン・モート・エ・ウン・ポーコ・ルバート、6/8拍子。上行形を基本とした憧れに満ちた旋律。この曲でも中間部は執拗な繰り返しが特徴となっている。第5曲:アンダンティーノ、9/8拍子。夏至の頃に見られる白夜をうたったA.フェートの詩に基づく。主部は幻想的、中間部はイタリア風・カンツォーネ風な明るさ。第6曲:アンダンテ・カンタービレ、4/4拍子。普通の舟歌は複合拍子だが、4拍子とは変わっている。感傷的なメロディーはチャイコフスキー特有のもの。第7曲:アレグロ・モデラート・コン・モト、4/4拍子。民謡風・合唱風のメロディーはハ短調に転じ、活発に展開される。第8曲:アレグロ・ヴィヴァーチェ、6/8拍子。仕事に忙しい農夫の情景と思われ、音楽はスケルツォ風。中間部はドルチェ・カンタービレで、しばし休憩といった感じ。第9曲:アレグロ・ノン・トロッポ、4/4拍子。通常の「狩の音楽」らしく3連音とホルン5度が特徴である。第10曲:アンダンテ・ドロローソ・エ・モルト・カンタービレ、4/4拍子。たいへん有名な一曲で、単独でしばしば演奏される。第25小節のB♯音については以前『あんさんぶる』誌の連載で触れました。第11曲:アレグロ・モデラート、4/4拍子。ネクラーソフの詩は「遥かな道を見つめて憂いてはいけない/トロイカをあわてて追いかけてはいけない」と、心の悲しみをうたっている。美しいメロディーがユニゾンで奏され、アルペジオで彩られる。中間部はト長調、グラツィオーソになり、鈴の音の描写も見られる。再現部はテーマが左手に移り、右手のスタカートは雪の描写と思われる。第12曲:テンポ・ディ・ヴァルス、3/4拍子。娘たちが踊っている様子ということである。トリオはホ長調となり、いつものチャイコフスキーらしい繰り返し。
オペラ<オプリーチニク>の主題による葬送行進曲 1877 *
行進曲 義勇艦隊(スコベレフ行進曲)ハ長調 1878 出版社ユルゲンソンの依頼で作曲された。P.L..シンポフというペンネームで出版。
グランド・ソナタ ト長調 Op.37 1878 シューマンの影響下に作られた本格的ピアノソナタ。初演はニコライ・ルビンシテインの演奏で行われ好評であった。第1楽章:モデラート・エ・リソルート、ト長調、3/4拍子。第2楽章:アンダンテ・ノン・トロッポ・クワジ・モデラート、ホ短調、9/8拍子。第3楽章:スケルツォ、アレグロ・ジョコーソ、ト長調、6/16拍子。第4楽章:フィナーレ、アレグロ・ヴィヴィーチェ、ト長調、2/4拍子。
中程度の難しさの12の小品 Op.40
[1. 練習曲(ト長調)/2. 悲しい歌(ト短調)/3. 葬送行進曲(ハ短調)/4, マズルカ(ハ長調)/5. マズルカ(ニ長調)/6, 無言歌(イ短調)/7, 村で(イ短調−ハ長調)/8. ワルツ(変イ長調)/9. ワルツ(嬰へ短調)/10. ロシアの踊り(イ短調)/11. スケルツォ(ニ短調)/12. とぎれた夢(変イ長調)]
1878 第1曲:アレグロ・ジュスト、2/4拍子。チェルニーやサン=サーンスを思わせる両手のためのエチュード。第2曲:アレグロ・ノン・トロッポ、4/4拍子。単独でよく演奏される名曲。第3曲:テンポ・ディ・マルチャ・フーネブレ、4/4拍子。「悲痛に、そして非常に感情をこめて」と記され、味わいのある和声に支えられた旋律。中間部は変イ長調に転じる。
第4曲:テンポ・ディ・マズルカ、3/4拍子。軽快な楽想の舞曲。最初の一節が属調で終始し、ハ長調にが確定するのが第17小節と遅いのが面白い。中間部は変イ長調となり、チャイコフスキーらしいフレーズの反復がみられる。第5曲:テンポ・ディ・マズルカで前の曲と同じ性格を持つが、この曲は最初からニ長調の主題である。中間部は変ロ長調。やはり同じ動機を何度も繰り返すのが特徴。第6曲:アレグロ・モデラート、2/4拍子。有名な1曲である。拍裏にある和音がどことなく不安な感じで、これもチャイコフスキーによくみられる手法。。第7曲:アンダンテ・ソステヌート、2/4拍子。民謡風で素朴な旋律が歌われる。後半はアレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ、リズミカルな音楽となる。第8曲:テンポ・ディ・ヴァルス、3/4拍子。穏やかな情緒のワルツ。第9曲:テンポ・ディ・ヴァルス、3/4拍子。いくぶんメランコリックなワルツ。第10曲:アンダンティーノ、2/4拍子。民族的な舞曲で、後半はアレグロ・モルト・ヴィヴァーチェに転じるのは第7曲と似ている。第11曲:アレグロ・ヴィヴァーチッシモ。3/8拍子。力強く活発なスケルツォ。トリオは変ロ長調で落ち着いたカンタービレ。第12曲:アンダンテ・ウン・ポーコ・ルバート・エ・コンモルト・エスプレッシオーネ、3/4拍子。ゆっくりとした叙情的な旋律のあとモデラートとなり、アルペジオの伴奏に乗って中音域にメロディーが現れる。まるでバレエ音楽の一場面のような美しい作品。
子供のアルバム Op.39
1. 朝の祈り(ト長調)/2, 冬の朝(ロ短調)/3. ママ(ト長調)/4. 小馬に乗って(ニ長調)/5. 木の兵隊の行進(ニ長調)/6. 新しい人形(変ロ長調)/7. 人形の病気(ト短調)/8. ワルツ(変ホ長調)/9. ポルカ(変ロ長調)/10. マズルカ(ニ短調)/11. ロシアの歌(ヘ長調)/12. 農夫がガルモニカを弾く[お百姓の歌](変ロ長調)/13. カマリンスカヤ(ニ長調)/14. イタリアの歌(ニ長調)/15. フランスの古い歌(ト短調)/16. ドイツの歌(変ホ長調)/17. ナポリの歌(変ホ長調)/18. 乳母のお話(ハ長調)/19. バーバ・ヤガー(ホ短調)/20. 甘い夢(ハ長調)/21. ひばりの歌(ト長調)/22. 教会で(ホ短調)/23. 旅音楽師の歌(ト長調)]
1878 作曲者による大まかな分類は以下の5つだと全音楽譜出版社版の“かいせつ”にある。以下の通り(題名は全音版に従った)。

○ ピアノによるロマンス形式: イタリアの歌/甘い夢/辻音楽師)
○ 当時ロシアで一般的だった舞踏曲: ワルツ/マズルカ/ポルカ)
○ ロシアの民族舞曲形式:  ロシアの歌/お百姓の歌/ロシアのおどり(カマリンスカヤ)
○ 抒情形式: 冬の朝/ひばりの歌
○ 民話的なもの: ババヤガ(魔女)/乳母のお話

低年齢の学習者からペダルを使用できる中級の学習者まで幅広く学べる、優れた曲集ということができる。第22曲「ひばりの歌」はカルムス版(ロシア語のタイトル表記がある)では「モデラート」だが、大抵のエディションでは「Lentamente」なので要注意。
6つの小品 Op.51
[1. サロンのワルツ(変イ長調)/2. 少し浮かれたポルカ(ロ短調)/3. メヌエット・スケルツォーソ(変ホ長調)/4. ナータ・ワルツ(イ長調)/5. ロマンス(ヘ長調)/6. 感傷的なワルツ(ヘ短調)
1882 第1曲はアレグロ、3/4拍子。軽やかな主部はA-B-A構成で、B部分はオクターヴの華やかなパッセージとなる。中間部はロ長調、メノ・モッソとなり、ときどきリテヌートのかかる独特の節回しが面白い。第2曲はアレグロ・モデラート、2/4拍子。低めの音域でやや暗い情緒の旋律がポルカのリズムの上に歌われる。題名は寺西春雄『チャイコフスキー 大音楽家・人と作品』に従ったが、他に<少し踊るようなポルカ>という訳もある(井上和男編著『クラシック音楽作品名辞典』)。第3曲はモデラート・アッサイ、3/4拍子。調性不明確な6度の重音で始まるがすぐに変ホ長調に落ち着く。中間部のバスの装飾が美しい。現在演奏されるのは第3次改定版。第4曲はモデラート、3/4拍子の華やかなワルツ。1878年版はずっと簡素な曲だったが改作された。第5曲はアンダンテ・カンタービレ、4/4拍子。しばしば演奏される美しい作品である。第6曲はテンポ・ディヴァルス、3/4拍子。ヴァイオリン、フルートなどの編曲があり、この曲も有名な一曲。
アムプロムプチュ・カプリス  ト長調 1884 アンダンティーノ〜アレグロ・ヴィーヴォ、4/4拍子。全体は58小節という短さ。
ドゥムカ(ロシアの田舎の情景) Op.59 1886 マルモンテルの依頼で作曲された。初演はF.M.ブリューメンフェルト。アンダンティーノ・カンタービレ、4/4拍子のゆったりとした旋律が、音符を細分化する手法で徐々に高揚してゆく。
ヴァルス・スケルツォ(第2番)  イ長調 1889 アレグロ・イン・テンポ・ディ・ヴァルス、3/4拍子。中間部で手の交差を行うなどの工夫が見られる一曲。
即興曲 変イ長調 1889 低音域のカンタービレが特徴の一曲。モデラート・コン・モート、6/8拍子。
熱い告白 ホ短調 1889 交響的バラード「地方長官 Op.78」の中間部で流れる旋律が転用された作品。低音域で歌われる表情豊かなメロディーが印象的である。モデラート・モッソ、モルト・ルバート、3/4拍子。
即興曲 叙情的な時  変イ長調 1892(〜93?) アンダンティーノ、3/4拍子。全体が56小節の小品である。
軍隊行進曲(ユーリエフ連隊の行進曲) 変ロ長調 1893 テンポ・ディ・マルチャ・マエストーソ、4/4拍子。晩年のこの作品が書かれた経緯については調査中です。
18の小品 Op.72
[1.即興曲(ヘ短調)/2.子守歌(変イ長調)/3.穏やかなお叱り(嬰ハ短調)/4.性格的な舞曲(ニ長調)/5.瞑想(ニ長調)/6.舞踏のためのマズルカ(変ロ長調)/7.演奏会用ポロネーズ(変ホ長調)/8.対話(ロ長調)/9.いくらかシューマン風に(変ニ長調)/10.幻想的スケルツォ(変ホ短調)/11.小さなワルツ(変ホ長調)/12.いたずらっ子(ホ長調)/13.村のこだま(変ホ長調)/14.悲歌(変ニ長調)/15.いくらかショパン風に(嬰ハ短調)/16.5拍子のワルツ(ニ長調)/17.遠い昔(変ホ長調)/18.トレパックへの誘い(ハ長調)]
1893 「収入のためにあわてて書いた」と作曲者が言っているらしいし「難技巧のわりに映えない小品集」という意見もあるが(寺西春雄『チャイコフスキー 大音楽家・人と作品』p.204)、作曲者の円熟を感じさせる内容の作品集であると思う。第1曲:アレグロ・モデラート・エ・ジョコーソ、3/4拍子。スタカートの伴奏にのった軽やかな旋律。中間部は変ニ長調、室内楽的な響きとなり、高音の響きが美しい。第2曲:アンダンテ・モッソ、4/4拍子。終始穏やかな情緒で、アルペジオの和音が特徴。第3曲:アレグロ・ノン・タント・エド・アジタート、2/4拍子。休符をはさんだ表情豊かな旋律が右手から左手に受け継がれる。第4曲:力強い表現の舞曲で、ピアニスティックな装飾句も登場して華やかに彩られる。和声的にどこかスペインの音楽、特にファリャの管弦楽曲を思わせるところがあるのは面白い。第5曲:アンダンテ・モッソ、9/8拍子。曲集中の傑作で、ピアノ曲でありながら管弦楽曲を思わせる。再現部で主題が低声部に移った時のオブリガートが素晴らしい。第6曲:テンポ・ディ・マズルカ、3/4拍子。何曲もあるマズルカと変わりないようだが、この曲は転調に面白みがある。第7曲:テンポ・ディ・ポラッカ、3/4拍子。リスト風のエネルギッシュなポロネーズだが、時々ベートーヴェン風の音形が出てくるのが面白い。第8曲:アレグロ・モデラート、3/4拍子。まるでヴェルディのオペラの一場面を見るような美しい二重唱。第9曲:モデラート・モッソ、2/4拍子。シューマンの特徴である付点リズムを特徴とした一曲。第10曲:ヴィヴァーチェ・アッサイ。12/8拍子。チャイコフスキーの管弦楽を思わせる技巧的な作品。規模が大きく、演奏も非常に難しい。第11曲:テンポ・ディ・ヴァルス、3/4拍子。伴奏形が通常のワルツと違っていることと、中間部最後にカデンツァ風パッセージが挿入されているのが特徴。第12曲:アレグロ・モデラート。4/4拍子。いろいろテンポを動かしてスケルツァンドな雰囲気を出している。第13曲:アレグロ・ノン・トロッポ、2/4拍子。民謡風のメロディーが明るく歌われたあと、「鐘のように」と記された旋律が高音部で奏され、それが交替する。第14曲:アダージョ、4/4拍子。チェロで奏でられるかのような旋律をゆったりとした伴奏が支える。中間部はテンポを速め、フェルマータをときどき用いた美しいカンタービレ(メッツォ・ソプラノのよう)。再現部は伴奏形がハープを思わせ、この部分の演奏効果は素晴らしい。第15曲:テンポ・ディ・マズルカ、3/8拍子。題名どおりショパン風のマズルカだが、伴奏の1拍目が休符になっている。中間部は右手に華麗な装飾句が登場。第16曲:ヴィヴィーチェ、5/8拍子。ロシア音楽にしばしばみられる5拍子ワルツ。単純な動機が全曲を支配するもの。第17曲:モデラート・アッサイ・クワジ・アンダンテ、4/4拍子。「気高さと親密な感情をもって」と記されている。淡々と歌われる主題が、後半では無言歌風に展開される。第18曲:アレグロ・ノン・タント、2/4拍子。最初のうちは即興風でテンポが定まらないが、アレグロ・ヴィヴァーチッシモとなり、ロシアらしいトレパックの踊り。オクターヴ、グリッサンド、ブラインドオクターヴなど技巧を凝らしてにぎやかな踊りの情景が演出される。
民謡<枝をなびかせているのは風ではないか>の和声付け 1893 *

ピアノ協奏曲

ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 Op.23 1874〜75 「何の価値もなく、演奏にも値しない代物で、パッセージは小間切れで不器用さの限り、救いどころはほとんどなく、楽想は陳腐で俗悪、ところどころに誰かに使い古されたような箇所もある」とニコライ・ルビンシテインは酷評し、「根本的に手直しするなら、公開演奏してもいい」と言った(寺西春雄『大作曲家・人と作品 チャイコフスキー』音楽之友社)が、その後献呈されたビューローがアメリカで初演し大成功を収めた。チャイコフスキーの音楽の持つ特徴がはっきり出た作品である。第1楽章の比重が大きく、序奏が異常に長く印象的なもの。第2楽章はゆっくりした抒情的な主部とスケルツォ風の中間部との対比が個性的だ。第3楽章は民謡に基づいた楽章。
ピアノ協奏曲第2番 ト長調 Op.44 1879〜80 スランプから立ち直った頃作曲された。ヴィルトゥオーソ型のロマン派ピアノ協奏曲で、第2楽章は弦楽器のソロがあって大変美しい。緩徐楽章については第1番よりこちらの方が魅力があるのではないだろうか。この曲はジローティによる改訂版もある。
ピアノ協奏曲第3番 変ホ長調 Op.75 1893 変ホ長調の交響曲《人生》のスケッチをもとに単一楽章の作品として書かれたもので、成立の経緯については名ピアニスト、ルイ・ディエメとの関係がしばしば指摘されている。オーケストレーションが巧みで、ピアノの扱い方も以前の2曲よりずっと洗練されているように思える。この曲はもっと演奏されてもよいのはないだろうか。


連弾作品

50のロシア民謡 1868〜69 チャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」、ストラヴィンスキーの「火の鳥」などにも用いられたロシア民謡が編曲されたもの。

編曲

6つの歌曲 Op.16[第1,4,5曲] 1873以前 第1曲「子守歌」が有名。のちにラフマニノフも編曲を行った。



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